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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)2068号 判決

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、一五〇万円及びこれに対する平成元年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張

左のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一である(ただし、原判決二枚目裏一一行目の「同中学校」を「梅花中学校」と、同四枚目裏初行の「理解された」を「理解した」と、それぞれ改める。)から、これを引用する。

一  控訴人の主張

1  仮に、裏口入学のあっせんを請け合うことが公序良俗に違反して無効であったとしても、被控訴人は、入学の便宜を図る能力も意思もなかったのに、これがあるものと控訴人を誤信させて、控訴人から金員を騙取しようとしたものであり、その違法性は極めて大きいから、被控訴人の行為は不法行為を構成するというべきである。

2  したがって、事実関係を調べることなく控訴人の請求を棄却した原判決は不当である。

二  被控訴人の主張

1  被控訴人の主張1は争う。

被控訴人は、控訴人から裏口入学のあっせんを請け合った事実はないし、控訴人を誤信させ同人から金員を騙取しようとした事実もない。

2  控訴人が裏口入学の期待を持ったとしても、かかる期待は法的保護に値する利益を有しないとした原判決の判断は正当である。

理由

一  公立の学校はもとより私立の中学校等であっても、その入学選抜方法が公正かつ妥当な方法で行われなければならないことは、いうまでもない。控訴人主張のように、親が子の将来に対して深い関心を持ち、これを配慮すべき立場にある者として、子の教育に対する一定の支配権及び期待権を有するとしても、それは正当な方法によってのみ図られるべきものであり、いやしくも不法、不当な方法により図られるべきものではない。けだし、教育基本法一条は、教育の目的を、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行なわれるべきものと定め、この理念は、家庭教育の場にあっても同様であり、親の子女の教育に対する支配権、期待権も右教育基本法の精神に沿ったものでなければならないからである。

いわゆる裏口入学は、正規の手続によらず不正義、不公正な方法によって入学を実現しようとするもので、それ自体が刑罰法令に触れるものではないとしても、前示教育基本法の定める教育の目的の精神に反し、また同法三条に定める、すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないとの、教育の機会均等の精神に違背し、しかも、公正な入学試験が行われることを信じて勉学に励む多くの受験生やその関係者に対する背信的行為でもあり、社会全般にとっても到底許容することができず、厳しい社会的非難を免れないものであって、公序良俗に反することが明らかである。そうすると、裏口入学のあっせんを依頼することも公序良俗に反する行為であって無効であり、右裏口入学のあっせんを依頼したことに基づく期待は法的保護に値しないというべきである。そして、右のような期待を抱くこと自体が法的保護の対象にならないのであるから、先に述べた理は、本件あっせんの依頼を受けた被控訴人において真実右あっせんをなす意思を有していた場合であると、それをなす意思、能力を有していなかった場合であるとを問わないというべきである。また、控訴人において、本件裏口入学の期待を抱いたために、雅世に他の私立中学校の入学試験を受けさせる機会を失い、精神的苦痛を受けたとしても、それは、控訴人が不法、不当な期待を抱いたことによるもので、控訴人の責任であるというほかなく、その責を被控訴人に問う余地はないと考えられる。

二  以上により、控訴人の本訴請求はその前提において法的保護に値する利益を欠くものであって、本件において不法行為が成立する余地は存しないというべく、控訴人の本訴請求はそれ自体失当であって棄却を免れない。

右と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大久保敏雄 裁判官 妹尾圭策 裁判官 中野信也)

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